開拓期の社会福祉事業は、カリスマ的なリーダー達によって道が開かれてきたという事実があります。今日、そうしたリーダーが特に注目されることは、以前に比べれば多くはないと思われます。カリスマ的リーダーの他にさまざまなタイプのリーダーが、それぞれの組織を率いています。
近年の研究によれば、リーダーはある特別な「資質」や「特性」によるものではない、つまり「偉人」だけがリーダーになり得るのではない、ということがわかってきました。リーダーは「資質」ではなく、「行動」によって説明されるものなのです。
そうした点から、リーダーのあり方、つまりリーダーシップとは、「組織メンバーや集団に、共通の目標を示して、目標を達成する活動に影響を与えるプロセス」のことをいいます。リーダーシップについては、多くの研究がなされていますが、ここでは、リーダーシップの「レベル」と「内容」について概観しておきましょう。
リーダーシップのレベルというのは、リーダーの機能が、組織のトップとミドルの2つのレベルで異なるものと考えることによります。ミドルクラスのリーダーの役割は、おもに、フォロワー(部下)との関係についてですが、トップレベルのリーダーシップでは、フォロワーとの関係だけではなく、戦略的活動やシンボリックな活動も重要な課題になってきます。
リーダーシップの内容については、交換型リーダーシップと変革型リーダーシップの違いがあります。変革型リーダーシップの行動は、組織や集団の方向性や枠組みそのものを変えます。それに対して、交換型のリーダーシップは、組織や集団の方向性や枠組みには手を付けずに、与えられた職務を適切に遂行する調整型の行動です。
上述したリーダーシップのうち、変革型と交換型について、もう少し詳しくみてみましょう。変革型リーダーは、目標を広げる、目標を高く設定するなど、期待を超える成果をあげ、自信をつけさせることで、メンバーに対して影響力を及ぼします。たとえば、下の表のような行動です。
変革型リーダーの行動
| 1 | 鼓舞、動機付け | 将来の魅力的なビジョンを示し、メンバーを鼓舞する行動 |
| 2 | 理想的影響 | メンバーが賞賛するようなカリスマ的な役割モデルを示す行動 |
| 3 | 知的刺激 | 前提に疑問を投げかけ、現状に挑戦し、メンバーのアイデアを吸い上げる行動 |
| 4 | 個人的配慮 | メンバーのニーズや意見に耳を傾け、サポートし、励まし、コーチの役割を果たす行動 |
一方、交換型のリーダーは、目標を設定し、成果を明確にし、フィードバックを与え、達成に対して報酬(経済的報酬だけではありません)を提供することで、メンバーに影響力を行使する傾向があります。たとえば、次の表のような行動です。
交換型リーダーの行動
| 1 | 状況に即した報酬 | メンバーに対する期待を明確にし、その期待に合致した行動をとったときに、それを認めて報酬を与える行動 |
| 2 | 積極的例外管理 | メンバーの行動を詳細に観察し、遵守すべきルールや基準から外れるときには、問題が生じる前にそれを修正する行動 |
| 3 | 消極的例外管理 | メンバーの行動が遵守すべきルールや基準から外れ、問題が生じたときにはそれを修正する行動。 |
優れたリーダーは、変革型と交換型の両方のリーダーシップスタイルを組み合わせている、という研究結果があります。組織が大きくなるにつれて、一人でそれを組み合わせることが難しくなります。組織が成長するにつれて、優れた参謀が必要になるのはそうした限界を克服するためです。
参考図書
『学習する病院組織』松尾睦 同文館 2009年(近刊)
管理職になったとたんに権限を振りかざすようになる人がいます。一方的に部下に命令して、その部下が命令を聞かないと、一層嵩にかかってきます。そうすると部下は一層反発するか、あるいはそれを無視するかなどして、組織の活力は失われてきます。なぜ、こうしたやり方がうまくいかないのでしょうか。
実は、権限はその人に与えられているのではないということを理解する必要があるのです。権限とは、相手がそれを受け入れたときにはじめて機能するものなのです。バーナードはこのように考えました。これを「権限受容説」といいます。
命令が受容されるためには、次のことが必要です。
(1)命令が理解できること
(2)命令が組織の目的と矛盾しないと
(3)命令が個人の目的と矛盾しないこと
(4)管理者の能力がその権限にふさわしいと部下が信じられること
いうまでもありませんが、権限受容説とは、部下の顔色をうかがうことではありません。
前回(第4回:「集団」の機能)でも述べたように、公式組織成立の3つの条件は、「コミュニケーション」「共通の目的」「貢献意欲=協働の意思」でした。上述した(1)〜(4)のうち、(1)はコミュニケーションにかかわること、(2)は共通の目的にかかわること、(3)は貢献意欲にかかわることです。こうしてみると権限の受容は、公式組織が成り立つ条件と表裏一体の関係だといえるでしょう。
参考図書
『新訳 経営者の役割』バーナード ダイヤモンド社 1968
最後にリーダーシップの2元論について触れておきましょう。これは、変革に関するリーダーシップというよりは、現在のある時点において、あるいは現在のある課題において、リーダーシップのスタイルの違いによって何が異なるのかを示したものです。社会心理学者の三隅二不二氏が唱えたPM理論は、「P:Performannce(目標達成能力)」と「M:Maitenance(集団維持能力)」という2次元が「大きい」か「小さい」かを組み合わせて4つのリーダーシップスタイルを区別しました。また、アメリカのオハイオ州立研究所は、「構造づくり」と「配慮」という2次元でこれを測定しましたし、ミシガン研究所は、「生産性指向」のリーダーシップスタイルと、「従業員指向」のリーダーシップスタイルがあることを明らかにしました。いずれの研究もそれぞれ異なった側面はありますが、共通していることは、リーダーが関わるものには、組織目標の達成に関する次元と、組織メンバーの人間関係に関する次元があることを明らかにした点です。これらをまとめると次の表のようになります。
ベストのリーダーは、2つの次元の両方に優れた力を発揮するリーダーです。一人でこれをおこなうことが難しい場合には、役割を分担して、補完するようにすればよいでしょう。
リーダーシップの2元論
| 内容 | 効果 | |
|---|---|---|
| タスク、構造、Performannce | 職務遂行手順の指示、達成への圧力、緊張感の醸成 | 課題の達成 生産性の向上 |
| 人間関係、配慮、Maitenance | 思いやる、相談に乗る、立場を気にかける、励ます | 集団の維持 満足感の上昇 |
参考図書
『リーダーシップ入門』金井壽宏 日本経済新聞社 2005