ボランティア団体やNPOが抱える問題の一つは、組織として未成熟なことであるといわれます。それでは組織とは一体どのようなものなのでしょうか。個人が集まったものがすべて組織と呼ばれるものなのでしょうか。そうではありません。バーナードは、組織を公式組織と非公式組織に分けて考えました。未成熟な組織とは、公式組織の要件を備えておらず、非公式組織の色合いが強いものといってもよいのかもしれません。
それでは、公式組織とは何でしょうか。バーナードによれば、公式組織が成立するためには、3つの条件が必要です。それは、@共通の目的、A貢献意欲(協働の意思)、Bコミュニケーションです。
非公式組織は、これらの3つがまだ揃っていないものです。おもにコミュニケーションだけによって、人々が結びついている状態と考えてよいかもしれません。換言すれば、人々が複数集まって互いにコミュニケーションができていても、共通の目的や貢献意欲(協働の意思)がなければ、それは公式組織とはいえないということになります。個人と公式組織の中間に位置するものが、非公式組織すなわち集団です。ボランティア団体やNPOが公式組織になるためには、コミュニケーションのほかに、共通の目的や貢献意欲(協働の意思)といった仕組みを作ることが必要です。

参考図書
『新訳 経営者の役割』バーナード ダイヤモンド社 1968年
『コアテキスト 経営学入門』高橋伸夫 新世社 2008年
しかし、非公式組織すなわち集団は、公式組織になりきらない未成熟な状態だけをさすのかというと、そうではありません。公式組織の中にも集団は存在します。集団は、公式組織にとって重要な役割を果たしているのです。公式組織における集団の役割を最初に発見したのは、アメリカで1927年から1932年にかけておこなわれたホーソン実験と呼ばれる調査でした。この実験によって、作業能率の向上には、賃金や職場の物理的な環境よりも、一緒に働く仲間集団の関係が大きく影響していることがわかったのです。集団は、個人と公式組織を媒介する大切な役割を果たしているのです。集団の持つ力をもとにして、公式組織が「共通の目的」や「貢献意欲」というものを十分に発揮するのだと考えられます。
組織のリーダーは、集団と公式組織の違いを理解したうえで、両者がうまく相互作用するようにしなければなりません。しかし、介護施設、特にグループホームや小規模多機能施設などは少人数の組織ですから、この集団と公式組織が区別されずに曖昧なままに運営される危険性があります。コミュニケーションがよいだけでは、組織としては力を発揮できないということを憶えておきたいものです。
参考図書
『組織と市場』野中郁次郎 千倉書房 1998年
ここで、前回取り上げた個人のモチベーションと、組織の関係について考えてみましょう。個人のモチベーションが高いだけでは、組織は高い業績を上げることはできません。今日の研究では、モチベーションが高い生産性を生むということは、実証されていません。それどころか、ある一定以上のモチベーションは、生産性を下げることさえあります。なぜなら、あまり高すぎるモチベーションの状態では、目標の達成に直接関連するような狭い認知行動をとりがちになって、新しい情報を見逃す可能性があるからです。
しかし、リーダーもメンバーも双方に影響力を持つような組織では、生産性が高くなることも実証されています。集団が結束していて、共通の目標を持ち、その目標に向かって力を合わせようとするときに、高い生産性が実現されるのです。いうまでもありませんが、介護サービスの高い生産性というのは、直接的に収入が上がるということではなく、サービスの質が向上し、利用者の満足が高まることです。このように組織メンバーのモチベーションが、集団として結束し、さらに共通の目標に向かって進むときにこそ、高い生産性が実現するのです。そのためには、共通の目標に向かってメンバーや集団を導くリーダーシップが必要になります。リーダーシップについては、次回詳しく述べたいと思います。

参考図書
『仕事とモチベーション』ヴルーム 千倉書房 1982年
『コアテキスト 経営学入門』高橋伸夫 新世社 2008年
ところで、集団は必ずしもよい働きばかりをするとは限りません。最後に集団のあり得べきダークサイドについて考えてみましょう。集団のマイナス面として、次の3つが考えられます。
@ 「集団圧力」
個人としては正しい判断ができていたはずなのに、多数派の力に負けて自分の考え方を変えてしまうような現象のことです。
一人ひとりの職員の行動からは考えられない集団の行動を引き起こすことがあります。もし、高齢者施設で不適切な介護がおこなわれているとすれば、一人ひとりの介護者の思いとは別に、集団の力が間違った方向に加わって、そのような行動をとってしまったのだと解釈できます。こうした圧力のことを集団圧力といいます。実験の結果、正しい行動をとろうとする人に、たとえ一人でも味方ができると、集団として正しい行動がとられるということがわかっています。
A 「集団浅慮」
集団で考えると、かえって深く考えずに決定がなされてしまうような現象のことをいいます。
最近、障害者団体が発送する郵便物の割引制度を悪用した事件が明るみになりましたが、これなどは、障害者団体の責任者が自分たちの社会的立場を深く考えずに安易に、広告代理店の誘いに乗った結果引き起こされた事件です。常に倫理観を持ち熟慮して行動したいものです。
B 「集団凝集性」
集団内の団結の度合いが高まり、集団間の対立(コンフリクト)が発生するような状況です。
たとえば、看護と介護の間でケアを巡って、意見が食い違うことがあるかもしれませんが、利用者にとってどのようにするのが最善なのかといった、集団の利害を超えた至高の目標を掲げることで、無益な対立を避けることができます。
参考図書
『経営組織』金井壽宏 日経文庫 1999年
『対人社会心理学重要研究集1』斎藤勇編 誠信書房 1987年