経営資源は俗に「ヒト」「モノ」「カネ」といわれます。最近では、これに「情報」を加えることもあります。このうち、「モノ」と「カネ」は、外部から直接的に管理することができます。「カネに色はついていない」という言葉は、こうした性質を良く表しています。
しかし、経営資源としての「ヒト」は、外部から直接的に管理することはできません。管理できるのは、その人が経営資源となるような仕組みを整えるということであって、本当に経営資源になるかどうかは、その人の自主性に任せざるを得ないものだからです。そうした意味で、経営資源としての「ヒト」は、管理する側とその人の思いが一致してはじめて実現するものだといえるでしょう。
近代管理論の祖であるバーナードは、組織が継続するためには、組織が組織メンバーに提供する「誘因」と、組織メンバーが組織に「貢献」することのバランスがとれていることが必要だと述べています。組織に貢献してもらうためには、組織メンバーが積極的に働こうとする意欲が必要です。これをワーク・モチベーションといいます(以下では、モチベーションとします)。
バーナードは、組織を継続させることこそが、経営者の役割であると述べています。組織を作ることはそれほど難しいことではありません。それを継続させることが難しいのです。そのためには、いくつかの要因がありますが、基本的には「誘因」と「貢献」の、バランスがとれていることが絶対条件です。組織メンバーの犠牲の上に成り立つ組織は、真の組織とはいえません。反対に、組織メンバーが一方的に誘因を受けるだけのもの(メンバーが満足しているだけのもの)も、真の組織とはいえません。今回は、望ましい介護組織を継続させるために欠かせない、貢献の主体である組織メンバーのやる気=モチベーションについて考えてみましょう。

参考図書
『経営学入門』高橋伸夫 新世社 2007年
『新訳 経営者の役割』バーナード ダイヤモンド社 1968年
モチベーションの理論は、大きく「内容理論」と「過程理論」に分けられます。内容理論は、組織メンバーのモチベーションが、どのような内容から成り立っているのかということに関するものです。過程理論は、モチベーションがどのような過程を経て形成されるのかということに関するものです。
内容理論は、人々がどのような欲求を持っているのかを明らかにしようとするものです。人々がどのようなことに価値を見出しているのかを知ることは、組織への真の貢献を引き出す上で欠かせない視点です。この立場の研究者たちは、モチベーションをつくり出すものが、経済的なものなのか、職場の人間関係なのか、あるいは仕事のやりがいなのか、といった構成要素の作用の違いに注目しました。こうしたアプローチのなかから、単に給与などの待遇を改善すれば仕事への貢献が高まるのではない事実が、ハーズバーグの「2要因理論=動機付け衛生理論」(後述)によってはじめて明らかになりました。
これに対して人々が仕事をする上でモチベーションを形成する過程に焦点をあてたものが「過程理論」です。過程理論は、欲求の内容がどのようにして、組織への積極的な参加に結びつくのか、あるいは、組織からの離脱に結びつくのかを明らかにしました。この理論にはいろいろありますが、今回は「職務特性理論」をご紹介しましょう(後述)。
なお、皆さんよくご存じのマズローの欲求階層説は、人間の欲求を5つに分類して、それぞれの欲求の内容を説明している内容理論であると同時に、それらの欲求が低次の欲求から高次の欲求へと段階的に変化する過程を説明しているので、過程理論としての側面も併せ持っているといえます。

参考図書
『経営組織』金井壽宏 日経文庫 1999年
この理論はモチベーションの内容理論の代表格ですから、皆さんの中にもご存じの方が多いかと思います。この理論は、仕事に対する満足と不満足の要因は別々のものであることを明らかにした点で画期的な研究です。つまり、仕事に対する満足と不満足は同じ次元の反対に位置するのではなく、別々の次元のものだというのです。
不満足の原因になるものは、「組織の政策と経営」、「監督」、「上役関係」、「同僚関係」、「作業条件」などです。これが悪くなると、人々は不満足を感じます。しかし、これを改善しても満足につながるわけではありません。そうした点からこのようなものを「衛生要因」と呼びます。風邪を引かないために、うがいや手洗いをするようなものです。うがいや手洗いをすれば風邪を予防することができる、つまり衛生状態を保つことはできますが、それによって健康な体になるわけではないといった理屈です。これに対して積極的に健康な体を作るためには、栄養や運動が必要になるのであって、それはうがいや手洗いとは別の次元に属するものだと考えるのがこの理論です。組織の場合は、これは「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」などです。ハーズバーグはこれらを「動機付け要因」と名付けました。
ハーズバーグはこの2つの要因について、つぎのように述べています。「仕事への満足の反対は不満足ではなく、むしろ仕事への満足を抱けないことである。同様に、不満足の反対は満足ではなく、不満足が存在しないことである。」
介護職員の待遇を改善することは社会的にも、介護事業所の経営にとっても重要な課題ですが、それを解決しただけでは、介護従事者が満足するわけではなく、真にモチベーションを高めて組織に貢献しようと思うわけではない、ということを憶えておく必要があるでしょう。
またここでは詳しく触れられませんが、モチベーションに金銭を絡ませると、金銭が不満の源泉になってしまい、モチベーションそのものが下がるといわれます。職務評価によって給与に差をつける仕組みは、本当にモチベーションを高めているのでしょうか。省みる必要がありそうです。(詳しくは、エドワード・デシ『内発的動機付け』誠信書房・高橋伸夫『虚妄の成果主義』日経BP社などを参照)


参考図書
『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー』「モチベーションとは何か」ハーズバーグ 2006年11月号 pp132-133
仕事の内容や性質そのものが、モチベーションに関係しているらしいということは、人の役に立ちたいという思いで福祉の仕事を選んだ人たちには理解しやすいものだと思います。
従事している仕事の特性がどのようにモチベーションに作用しているのかという過程に注目したのが、ハックマンとオルダムです。彼らの研究は職務特性モデルといわれています。彼らは、人々が携わっている仕事の中身そのものからなるモチベーションを取り上げました。このようなモチベーションを「内発的モチベーション」といいます。これに対して、給与や昇進など、本人の外部から与えられるモチベーションを「外発的モチベーション」といいます。
彼らが明らかにした内発的モチベーションに結びつく職務の内容は、
@ 技能多様性=仕事を遂行するのに必要な技能にどの程度のバラエティが必要とされているのか
A タスク完結性=仕事の流れの全体に関わっている度合い
B タスク重要性=その職務のできばえの如何がどれほどの社会的なインパクトをもたらすのか
C 自律性=自分なりに工夫して仕事のやり方が決められる度合い
D フィードバック=仕事の遂行それ自体を通してのフィードバック(業績評価ではないことに注意!)
です。
また、この5つの要因がどのようにして内発的モチベーションに結びつくのか、という過程はつぎのように説明されています。
「仕事そのものが人を動機づける程度=(技能多様性+タスク完結性+タスク重要性)÷3×自律性×フィードバック」です。
この式によれば、自律性あるいはフィードバックがゼロであれば、答えはゼロになってしまいます。介護職員にとっての自律性やフィードバックの重要性を改めて考える必要があるといえるでしょう。
また、介護の仕事が重要な仕事であると、社会に認知してもらえるような取り組み(=タスク重要性)は業界が一体となって取り組まなければならない課題だといえるでしょう。

参考図書
『経営組織』金井壽宏 日経文庫 1999年