社会福祉や医療、教育などのヒューマン・サービスの良否は、そのサービスを提供する職員にかかっているといっても過言ではありません。優秀なサービスを提供できる職員がいることと、その福祉事業の成長・発展は切り離せない関係にありますが、事業の成長と発展は、経営戦略というものに裏打ちされています。
経営戦略とは、その組織が何をおこなうのかの決定と、そのための経営資源(人、物、金)の配分に関するものです。したがって、福祉サービスの提供者に関する人材マネジメントは、経営戦略の視点から組み立てられなければなりません。
近年、経営資源としての職員という見方を強調する場合には、人事管理に代えて人的資源管理という用語が使われる傾向があります。

人的資源管理は、次の4つのものからなります。
@優れた人材の採用
A採用した人材の能力を開発して育成する
Bその働きぶりを評価し
C報酬を配分する
ただし、人的資源管理はその組織内だけで管理できるものではなく、社会的制約条件の影響を受けます。社会福祉の場合には、@他産業の採用事情、A人の配置数などを規定する関係法規、B報酬配分の原資となる収入の仕組みが公的に決められること、などがあげられます。
最近では多少違った動きも見られますが、わが国では、基本的には長期的な雇用を前提とした人的資源管理をおこなっています。この方針のもとでは、即戦力になる人材というよりは、
@長期間の勤続が期待できるか
A職場内教育を通して能力の向上が期待できる基礎的能力があるか
B長期間勤められるような協調性があるかどうか
が採用の基準になります。そして採用された後は、その職場で必要とされる能力が身につくような教育訓練がおこなわれます。
したがって、採用とその後の人材育成は一体の管理課題だといえます。そして、既存の人材と、必要とされる能力のギャップが内部の配置転換や教育訓練で埋められない場合には、外部からそれを埋められる能力をもった人材を採用します。
注意したい点は、教育訓練が経営上必要な観点からだけでおこなわれるものではないということです。従業員自身が描く、人生設計のひとつとしてのキャリアプランの欲求も満たすものでなければなりません。
経営上必要な人材の採用・育成と、従業員自身の成長の欲求を満たすような人的資源管理をめざしたいものです。

いうまでもなく、仕事は自分の自己満足を満たすものではありません。雇用された職員がおこなった仕事に関する評価は、経営管理全体の体系の中で適切におこなわれなければなりません。このことは、特定の人間が恣意的な評価をおこなわないということでもありますから、次の点を満たす必要があります。
@どのような理念を持って評価をおこなうのか
Aどのような評価基準を用いるのか
Bどのような方法と手順に基づくのか
C評価結果を何に活用するのか
評価制度は、人が人を評価するものですから、当然さまざまな限界があります。したがって、上記の4点に加えて、評価プロセスや評価基準を評価される側が知ることができる
D透明性が求められます。また、評価は職員にとっての賞罰ではなく、今の自分を知るための機会としてとらえてもらうことが必要です。そのためには、失敗を評価する減点主義ではなく、失敗を恐れずに挑戦する意欲をもってもらう
E加点主義を取り入れることも必要でしょう。

ヒューマン・サービスの経営上の特徴は、人件費(賃金)が他の費用にくらべて多くを占めるということにあります。人が人に対してサービスを提供するのですから、当然、それにかかる費用が一番多くなります。医療では収入100に対して50〜55くらい、社会福祉では65〜70くらいになるでしょう。収入とのバランスが重要になります。
一方、賃金は、職員にとっては所得の源泉であり、生活の基盤となるものです。したがって、賃金の支払いはつぎの2つの面から考えなければなりません。
@経営の支払い能力からみて適正水準を維持するという事業の継続性の観点、
A職員の生活水準を世間並みに保証するという社会性の観点とです。
賃金の職員への配分については、総額でいくら支払うのかという
@総額管理がまずおこなわれ、総額が決まると、個々の職員にいくら支払うのかという
A個別賃金管理がおこなわれます。賃金はその職員に見合った額が支給される必要がありますが、何に「見合った」ものかというと、それは責任と権限に見合ったものということになるでしょう。ですから、賃金管理は、仕事の責任と権限をどのようにするのかということと、一体の問題なのです。

『人事管理入門』今野浩一郎 日経文庫 1996年
『人事管理入門』今野浩一郎・佐藤博樹 日本経済新聞社 2002年